“La Palma” ビジュアル担当 オタニじゅん インタビュー
− 「どこか変」な世界を描くわけ −

音楽と絵のコラボレーションで架空の南の島を描く、空想トラベルブック『La Palma』。飾れる本という斬新な発想が目を引くが、音楽も絵もかなり個性的だ。

洗練された描線の中にどこか奇妙な感覚を宿すイラストレーションを手がけたのは、オタニじゅん。フリーのデザイナーとしての活動と平行して、ラテン界隈のイベントのフライヤーを手掛け、その独特のタッチには長年のファンも多い。だが、それらは言ってみれば裏方仕事。いままで彼の名前が前面に出る機会は限られていた。

今回の『La Palma』が、実質、初の作品集だ。にも関わらず、これまでの手描きのスタイルから一転、デジタルでの制作へと踏み出した、知られざる個性派に迫るインタビュー。

絵を描くのが好き

ー どうしてこの仕事についたんですか?

オタニ:僕が学校を卒業した年は、俗に言う就職氷河期だったんです。この仕事をやりたい!みたいなものもなかったし、偶然受かった広告の製作会社にデザイナーとして入りました。

ー イラストレーターではなかったんですね。

オタニ:そうですね。ただ、仕事の中には、自分でイラストを描いてデザインすることもありましたし、幅広くやってました。

ー デザイナー志望だったんですか?

オタニ:あまり意識はしてなかったんですが、もともと絵を描くのが好きで、絵を描く仕事につきたかったんです。高校生の頃は実家で、近くで唯一受験対策をやっている絵画教室に通っていました。漫画の『かくかくしかじか』みたいなところでしたね。で、その頃っていろいろ揺れ動くじゃないですか(笑)。油絵もいいなとか、服つくってみたいなとか。進路を決めるときには、ちょうどバイオリズム的にデザイナーだったんですね。ただ、実際に受験するときになって、自分はこの道向いてないかもなーって思ってしまって、ほぼ浪人するつもりでした。それが、受けたら一箇所だけ運よく受かったちゃったんです。

ー 一発で!?

オタニ:そうなんです。偶然。大学はムサビ(武蔵野美術大学)で、視覚伝達デザイン学科っていう、グラフィックデザインを主に勉強する学科でした、でも、偶然受かって田舎から出てきたもんだから、最初はグラフィックデザインが何かもよくわかってなくって。当時は、グラフィックデザインに興味のある人って、たとえばスケーターカルチャーだったり、何かしら刺激を受けたものがあるじゃないですか。僕はそういう、直接影響を受けたカルチャーがなくて。最初は、デザイン科なのに油絵描いたりしてたんです。ようやく大学3年になってイラストレーションの授業があって。その授業で、絵を描くことと社会との繋がりが見えてきて、自分のやりたい方向がわかったような気がしましたね。
で、働き出してしばらくして、音楽イベントをやっている友達に、フライヤーを描いてって頼まれはじめたんですよ。なぜか、フライヤーは手描きで!って思って作ってました。

ルーツはフライヤー

オタニ:こういうの、コツコツ10年以上やってます。僕が上京した頃って、音楽に出会える場はクラブが中心でした。いろんなジャンルのものが聴けて、情報を得るのに一番適した場所だった気がします。無名のデザイナーによるフライヤーも、たくさんあった記憶がありますね。

ー たしかにその頃って、クラブに行くとフライヤーがたくさん置いてあって、それを見るのも楽しかったですよね。

オタニ:そう。誰かわかんないデザイナーがこういうかっこいいの作ってるんだなってところに魅力を感じて、自分もずっと続けてやってます。大事な初期衝動だから、やめられない(笑)。で、結果これを続けるうちに自分の色が見えてきたので、自分の作風のルーツはフライヤーですね。フライヤーを見た人から仕事を依頼されたり、今につながってる関係もあります。自分の色を出すことを当初から意識してましたね。

ー 今はインスタグラムやSNSがありますが、当時はフライヤーだったんですね。それが発表の場にもなってる。

オタニ:そうですね、フライヤーで修行しましたね。しかもフライヤーって、儚くていいんですよ。イベントが終われば捨てられちゃいますから。

ー ラテン系のイベントのフライヤーを多く手がけていますが、きっかけがあったんですか?

オタニ:最初の頃(フライヤーを)描いてたイベントに、色んな国の曲をかけるDJが集まってたんですよ。レゲエをはじめ、タイのディスコの曲ばかり集めてる人や、アフリカの音楽、インドネシアの音楽、とか。そこから、第三世界というか、異国のものが好きになって、どんどん広がっていきました。

ー 好きな音楽が今の作風に影響してるんですね。

オタニ:そうですね。

大竹伸朗〜セロニアス・モンク

ー その前は、どういう絵を描いてました?

オタニ:高校の頃は、コラージュを作ってました。でも、高校2年のときに大竹伸朗さんのコラージュを知ったんです。ゴミを拾ってきて貼ったりしていて、そのパワーがすごすぎて衝撃を受けて、自分のが恥ずかしくなってやめました。
大竹さんとの出会いは、姉が東京のお土産に買ってきた、この本。

オタニ:姉の影響は大きいですね。音楽も、姉がいいって言うものを聴いてたりして。だから、オアシスとジャミロクアイとクイーンとスヌープ・ドッグを一緒に聴く、みたいなメチャクチャなことになってました。田舎で情報がないので、文脈がわかんないんですよね。
当時はスタジオ・ボイスが、そういうごちゃ混ぜなものの文脈をつなげてくれる存在でした。相関図がついてるんですよ。たとえば、オザケン(小沢健二)特集だったら、オザケンの周りにどういう人がいて、っていうことがぜんぶ載っていて、よく眺めてましたね。あの相関図をまとめた本があったら、欲しいです。スタジオ・ボイスって、レイアウトも攻めてて、文字は読みづらいけどトーンがかっこよくて、異様なオーラを出してた雑誌でしたね。情報とイメージの中間のような、そういう曖昧な立ち位置の、ビジュアル本みたいなものが好きですね。
例えばこれ。たぶん高校生の時にお年玉で買ったやつです。


オタニ:僕が大竹伸朗さんが好きっていうのは、大学の時の友人まわりは多分みんな知ってて。だからいま出すの恥ずかしいんですけどね。

オタニ:大学は、いろいろ知ってるすごいやつがいて、そういうやつに教わったりして興味を持ったのが、レイモンド・ペティボン。


オタニ:ソニック・ユースのアルバム・ジャケットで有名な人です。あとデイヴィッド・ホックニーは、高校生の頃から好きでしたね。


ー 確かにオタニさんの作風に通じるところがありますね。

オタニ:影響受けてると思います。あと関係ないですが、和田ラヂヲさんが好きで、メール送ったことあります。

ー 返事は来ました?

オタニ:来ました。細かいことは忘れましたが、三池崇監督の『DEAD OR ALIVE 犯罪者』って映画、観ました?ってメールを送ったら、まだ観てないけどオチがすごいらしいんでチェックしてみます、って返事が来ました(笑)。

ー デザインと関係ないじゃないですか!

オタニ:関係ないけど、返事が来てうれしかったですね。

ー この本も気になりますね。

オタニ:これはトルコで偶然見つけた本です。どこの誰が描いたのか全くわからない。イスタンブールにある、現代作家を扱うお店で出会いました。僕はけっきょく、あまのじゃくなので、自分の知らない変な価値観の人やものに惹かれちゃうんです。

ー 変なものですか。

オタニ:はい。中学生のとき、テレビでセロニアス・モンクが演奏している映像を見たんです。スーツに無精髭でボロボロのニット帽で、指にゴリゴリの指輪をつけて、弾き方も変わってて。ジャズって、子供の頃はスマートでこじゃれたイメージがあったんですが、モンクの佇まい、孤高でオリジナルな感じが最高で、ハマったんですよ。
そこからいろいろ聴いていって出会ったのが、サン・ラです。

はぐれた人が好き

オタニ:自分を土星人だと言って、ずっと宇宙と交信してた人なんです。家にバンドメンバー全員を住まわせて、朝から晩までずっと演奏して。新しく入ってきたトランペッターにパーカッションに転向するように言った翌日、庭に雷が落ちて、雷で倒れた木を使って太鼓を作らせた、とか。あと、宇宙グッズの専門店もやってたりとか、逸話がいっぱいで。でも、音楽はめちゃくちゃかっこいいんですよ!
キャッチーなものも大好きだけど、こういう世界感への興味からはどうしても抜け出せない。自分はこうなれないっていう部分で、憧れちゃうんですよね。

ー 王道じゃない人が好きなんですね。

オタニ:ある意味そうなのかも。ちょっとはぐれてる人が好きです。はぐれた人の発想力ってすばらしい。どこか超越していて、誰も真似できないところに行き着いてるんですよね。
この本もいいんですよ。

オタニ:仙厓義梵っていう、めちゃくちゃゆるかわな絵を描く和尚さん。
こういう、ちょっと不気味というかキモさのある本が好きで、見つけたら買うようにしてます。

ー これもヤバいですね!『必殺横目づかい』ってどういうことですか?

オタニ:バクスターさん。この人のことは正直よく知らないんです。絵そのものは意外と普通なんですよ。普通だけど、ちょっと気持ち悪い。

ー オタニさんの絵にもそういう感じありますよね。たとえば色使いも、ただの綺麗な色にはならない。

オタニ:毒っ気はなんとなく意識してますね。普通の中にある怖さ、くらいの感覚が出てるのが一番いいですね。僕の好きな人たちも、変なんだけど完全にドロップアウトしてるわけじゃなくて、実はバランス感覚がいいんですよ。

ー オタニさんも、一応社会生活もできてるわけで、破綻はしてないですからね。

オタニ:そうですね。たぶん破綻はしてないですね。いまのところ(笑)。

ー 身近な人では、どうですか?

オタニ:大学時代のイラストレーションの先生だった三嶋典東さんからもけっこう影響を受けてます。三嶋先生は線の表現を突き詰めた、ものごく濃密な分厚い本を出していて。

オタニ:テンションの高い人で、授業も変わってました。外で授業をやることになって、空に向かってシャボン玉とかで空中に絵を描いたり。「描き続けるガッツ」のような部分は、とても影響を受けてます。

ー まだ教えてるんですか?

オタニ:もう亡くなりました。それも、実はあとから知ったんです。

“La Palma”

ー 今回、絵の中身については、どうやって発想していったんですか?

オタニ:やっぱり音からです。あとは、キーワードについてディスカッションをしたのがよかった。いちばん最初は、「誰も知らない楽園」っていうぼんやりした言い方だったんです。そこから、不特定多数の人が見るならイメージしやすい方がいいから、「南の島」にしよう、となって。さらに、現代と未来と昔、パラレルワールドとか、いろんな要素が出てきて。ただの南の島にならなくてよかった。

ー まず設定や島の世界観を考えて、そこから絵や全体の構成を考えたんですね。

オタニ:そうです。主人公の設定も考えましたね。カリフォルニアに住んでる男性でこういう性格で、っていう設定が、描いてないけど実はある。だから、そんなに突飛な内容ではないんですよ。あとは、南の島をイメージしやすいような、たとえばヤシの木なんかのモチーフを入れました。その辺は、ディスカッションして正解でしたね。そうしないと、ひとりよがりなものを作っていたかもしれない。

ー いちおうストーリーというか、流れがありますよね。それは、最初から考えてあったんですか?

オタニ:最初と最後の絵は、はじめに決めていました。穴をのぞいている主人公を、両側の世界から描く、という。

オタニ:最後のページで最初に戻ってもう一回つながる、っていう、ずっと話がまわってるようなイメージです。
そこから全体の構成を決めて、細かいシーンを考えていきました。あとは、やっぱり音楽が大事だから、最後は音楽のあるシーンにすることも、決めていましたね。

ー 真ん中のスケッチ・パートは、どうやって考えたんですか?

オタニ:あれは難しかった!けっこう資料を探しましたね。多肉植物の本や、世界の仮面の本や、あとは料理本も。英語の説明もつけるから、こういう食材を炒めた料理です、とか具体的になるように考えて。なんとかまとまってよかったです。

ー ノートをスキャンするアイディアがいいですよね。しかも、ぜんぶ違うページをスキャンしてる。あれで、主人公が書いた、ってことがわかるという。

オタニ:あそこがいちばん苦労してます。古いノートが見つからなくて。けっこう探したんですが、出回らないらしいんですよ。ハードカバーだとなおさら。けっきょく、古本を使いました。古本と古い紙とを別々に取り込んで、合成したんです。ページごとにゴミの付き方を変えたりして。

チャレンジする

ー iPadで描いたんですよね。

オタニ:はい。そもそもiPadを買ったのは、インスタグラムに動画をアップするためだったんです。使ってみたらハマってしまって。いままで毎日コツコツ手で描いてスキャンしていたものが、iPadだけで完結して、しかも動画にもできるわけじゃないですか。描いたあとで色やトーンも変えられますしね。

ー いままで、オタニさんの「画集」みたいなものって、あったんですか?

オタニ:いや、本は出してません。

ー じゃあ今回は、初の画集、とも言えるものですよね。そこで新たにデジタルをやる、っていうのは、ずいぶんチャレンジングだと思います。

オタニ:そうですね、チャレンジです。デジタルで描くのは、僕のような作風とは相性悪いと思ってました。でも今回やってみて、手描きとデジタル両方のよさを活かして、いいものができたと思います。

ー なるほど。やはり手描きより早いものですか?

オタニ:早いですね。今回はほぼ1ヶ月で描きましたから。修正できるし、イメージに近づけるという点では、iPadは早い。ただ、失敗のよさっていうのは手書きに比べて出づらいのかなと思います。手描きの魅力って、そういう部分もありますから。実は今回も、最終的には手描きもやってるんですよ。色はいいんですが、線が気に入らなくて。iPadで描いたものを出力して、線だけトレースして描き直して、それをまたiPadに取り込んで色をつけました。
中間パートは、ぜんぶ手描きですけどね。

ー iPadでは修正が可能ですが、そのことで描く意識は変わります?

オタニ:それはあまりありません。

ー デジタルというだけでチャレンジングですが、他にいままでと違った点はありましたか?

オタニ:いままで線画が多かったので、色をこれだけ使ったのははじめてです。南の島だし楽しい方がいいかな、と思って、カラフルにしました。

ー なるほど。オタニさんとしては、だいぶ新しいことをやってるんですね。

オタニ:まあ、個人的にはいろんなこと試してますけど、その辺は気づかれない方がいいですね。パッと手に取った人が直感的にいいなーって思ってくれる物になってたら、理想的ですね。

ー そうですね。ぜひ多くの人に、実際に手に取って見てほしいですね。

オタニ:さっき話した三嶋先生に、「お前の絵は個性的でおもしろいけど売れない」って言われたことがあるんです。それ、当時妙に腑に落ちて、嬉しかったんですよね。だから、この本が売れたら見返せるかな、と思ってます(笑)。恩返しになればいいな、と。

ー それは最高の恩返しですよ!

オタニじゅん

1980年生まれ。鳥取県出身。武蔵野美術大学卒。リズミカルでシンプルなドローイングを主体としたトーンのイラストをメインに活動するアーティスト。また、グラフィック・デザイナー、アートディレクターとして、さまざまな広告ディレクション、デザインワークを手掛け、日々どこかに展開中。声を大きくしてまで言えない程度に、奇妙な文化と異国音楽好き。
http://otanijun.com/

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