坂口修一郎(Double Famous)インタビュー
– 大事なのは、匂いを嗅ぐこと –

しみずけんた(左)  坂口修一郎(右)

東京発エスペラント音楽集団Double Famous。1993年結成。無国籍インスト・バンドとして、今年で結成25年。世界中のローカル・ミュージックへの愛にあふれたサウンドが、多くの音楽ファンを魅了し続けている。of Tropiqueと方向性も近く、インスト・バンドとしても大先輩だ。流行とは距離を置いた音楽性を保ちつつ、どうやって長年バンドを続けてこれたのか。
バンドのスポークスマン・坂口修一郎に、of Tropiqueの母体となったコロリダスの頃から親交のあるしみずけんたが、話を聞いた。

[聞き手:しみずけんた / 取材・写真:近藤哲平]

General Strike

しみず:オブ・トロピークと近い雰囲気のバンドっていうと、ダブルフェイマスくらいしか思い浮かばないんですよ。インストで、音楽的にも、人のあたたかさ、いなたさを持ったバンドっていうか。

坂口:たしかに、いないかも。めずらしいよね。
そもそも、(オブ・トロピークは)どうやってはじまったの?


しみず:最初は、クラリネットでエキゾチカをやる、っていうコンセプトだったんです。それが、僕と哲平さん(※近藤哲平。of Tropiqueのクラリネット奏者。)とで、いろんな音楽を聴いて「こういうのいいよね!」ってやり取りするうちに、どんどんコンセプトから外れていって。そのときに聴いてたのは、たとえばジェネラル・ストライクとか。

坂口:最高だね!(ジェネラル・ストライクのメンバーの)デビッド・トゥープは大好きなんだよ。ミュージシャンでもあるけど、プロデューサーでありライターでもあり、自分にとってはロールモデルみたいな存在だね。
ジェネラル・ストライクではたぶんアルバムは1枚しか出てないんじゃない?

しみず:Danger In Paradiseですね。ダブの使い方とか、エキゾチックな感じがいいんですよね。

坂口:ジャケットも可愛いよね。

しみず:ジャケットも島の絵で、オブ・トロピーク感ありますね(笑)。他には、パスカル・コムラードとか、怪しいトイポップとか、コロンビアのメリディアン・ブラザーズとか聴いてました。


Double Famous

しみず:ダブル・フェイマスは、コンセプトとかあったんですか?最初はどうやってはじまったんですか?

坂口:大学のとき、友達同士でレコードを持ち寄って聴く会っていうのをやってたんだ。僕は鹿児島で生まれ育ったんだけど、当時は情報が極端に少なくて。それでもYMOが好きで、そこからマーチンデニーや、バリ島のケチャとか知ったんだけど、音に関しては想像するしかないわけ。まだインターネットもないし。で、悶々とした状態で大学入って東京に出てきたら、六本木にWAVEっていうすごいCDショップがあってびっくりして、稼いだ金を全部レコードと映画に費やしてた。それでスカ、レゲエ、カリプソ、アフロ、っていう風にいろんな音楽を聴くようになって、みんなでレコードを持ち寄って聴いてたんだ。そのうち、もっと大音量で聴きたくなって、下北のZOO(※後にSLITSに改名)ってクラブで、レコードを持ち寄って大音量で聞く、っていうイベントにみんなで集まるようになって。だけどみんなDJが上手いわけでもないし、やっぱりバンドがいた方が盛り上がるね、ってことで、かけてた曲をカバーして演奏しはじめたのが、ダブル・フェイマス。

しみず:へー!じゃあ最初からメンバーは音楽好きが集まってたんですね。

坂口:うん。で、最初はカリプソを普通にカバーしたりしてたんだけど、もっとモダンな表現もやりたくなってきて。僕はやっぱりYMOとかが好きだったしね。そのころ聴いてたのが、それこそジェネラル・ストライク、パルカル・コムラードやオブリック・セッション、レ・ネグレス・ベルト、あとマヌ・チャオがやってたバンド・・・

しみず:マノ・ネグラですか?

坂口:そう!あとラウンジ・リザーズとか。クラッシュもレゲエやってたけど、土着なのをそのままやるんじゃなくて、「都会の人がやってる土着の音楽」みたいなのをやりたかった。


しみず:いろいろ取り入れて消化して、って感じですかね?

坂口:消化するより、消化しきれてない方がかっこいいと思ってたね。演奏能力も高くはなかったし。

しみず:なるほど。

仲間がいない

しみず:その当時、ダブル・フェイマスみたいなバンドって、他にもいたんですか?

坂口:いや、いなかったと思う。レゲエ・ブームが70〜80年代に一回あったから、ヤーマン!(※レゲエの挨拶。「やあ」のような意味。)みたいな人たちはいたかな。でも、音楽はいいんだけど、ドレッド・ヘアでヤーマン!っていうのは、なんかちょっと違うな、って。僕らがヤーマン!て言うとギャグみたいになっちゃうからね(笑)。
日本って、ジャズはジャズ、ラテンはラテン、レゲエはレゲエ、っていう風に、「道を極める」っていうのが多いじゃない?でもそれは借り物感があるように思えてしまって。たとえばキューバ人の音楽をただテクニック的に再現して、どうなるんだろう、って思ってた。ニューウェイブとかが好きだったし、違和感があったんだよね。ダブル・フェイマスのメンバーはみんなその違和感を持ってたと思う。クンビアのバンドです!て言ってそれしかやらないってうのは、なんかちょっと違うかな、って。だって、すでにいろんな音楽を聴いてしまっているわけだから。

しみず:なるほど。それで活動してるうちに、無国籍、エキゾチック、トロピカル、っていうワードがついてきたんですね。そういうキイワードって、最初から意識してたんですか?

坂口:いや、それは後からだね。サルサバンドって言ったら怒られそうだし、スカバンドって言ったら違うだろって言われそうだし、何バンドとも言えないから、じゃあ無国籍ってしとくか、って誰かが言い出した。焦点が定まってないのがいいな、と思ってやってたんだけど、そういうスタンスのバンドはあまりいなかったね。仲間がいなかった。

しみず:オブトロピークも、仲間ができなそうで、困ってます(笑)。

自分のパトロンになる

しみず:いまはそんなに活動してないんですか?

坂口:みんな地方に移住しちゃったからね。長野、小豆島、岡山、沖縄、鹿児島。

しみず:島が多いですね!

坂口:5年くらい前から、そういう感じだね。

しみず:今はみんなそれぞれ別の場所で自分の仕事しながらやってるんですか?

坂口:そうだね。こういう音楽性だとなかなか食ってくのは大変だから。10人くらいいるし。2000年くらい、フジロックや朝霧ジャムに出はじめた頃、ステージはでかくなるけどぜんぜん儲からなくて。それで、バンドだけで食ってくにはいくら必要か計算したんだ。同世代のサラリーマンがだいたい年収300〜500万は稼いでるとすると、僕ら10人いるから、最低3,000万稼がなきゃいけない。仮に1本10万のギャラでライブやるとすると、年間300本。ライブだけで稼ごうとすると絶対無理。じゃあライブ100回にしたら残り2000万。ライブの単価いくら上げればいいんだ、CD何枚売ればいいんだ、みたいな話になって。それだけ売るには、音楽性を変えなきゃたぶん無理。でも音楽性変えるのも無理。じゃあどうする、ってなって。自分たちで別で稼いで、自分のパトロンになって好きな音楽やるしかないな、って思ったんだ。

しみず:自分のパトロンって、面白いですね!
でも、2000年くらいですよね?CDがいちばん売れてた時代じゃないですか。その頃にそういう判断をするって、だいぶ早かったんじゃないですか?

坂口:でも、兆しは見えてたから。ちょうどその頃、iPodが出たんだよ。何千曲も持ち歩いて好きなときに聞けるって最高だな、って感動して。中学生のときにお年玉でウォークマンを買って、自転車で通学のときに聞ける、っていうのがすごくうれしかったのを思い出してね。

しみず:わかります!僕も高校生のときにCDウォークマンを買ってはじめて通学のときに聞いて、いつもの田んぼ道が輝いて見えたんですよ!疾走感というか、風が見える感じで、びっくりしたんですよね。

坂口:だけど、当時リリースしていたレコード会社ではiPod禁止だったんだ。

しみず:えー!

坂口:リッピングなんてCDが売れなくなるからありえないって。社員でiPod持ってると怒られてた。何言ってんだ!って思ってたら、そのうちCCCD(コピー・コントロールCD)を導入することになって。ちょうどダブルフェイマスの3枚目のアルバムを作っているときに、これがCCCD第一弾になります、って言われたんだ。絶対無理!って猛烈に反発したよ。最初にそんなこと言われてたら契約しないし。

しみず:CCCDで出すこと自体が、嫌だったんですか?

坂口:うん。ユーザーが便利だと思っているものを出す側が制限するっていうのが、嫌だった。すごく反対してゴネにゴネて、けっきょく、無理くり映像をオマケで入れることにしたんだ。映像を入れるとCCCDにできなかったから。それでウチらだけそのときのラインナップから外れたんだ。当時CCCDで出しちゃったミュージシャンは、けっこうリスナーから叩かれた人もいてセールスも下がったんじゃないかな。そしたら、CCCDは5年もしないうちになくなったよね。
そのとき、CDは売れなくなるな、って思ったんだよ。CDを売って食べていく、っていうミュージシャンの人生設計はもう成り立たないだろう、って。抱え込もうとした時点で、レコード会社は、これ以上いかない、ってわかってる。これ以上いかないってことは下がるしかないわけ。で、いま好調なのに食えてないんだから、これから下がっていって絶対に食えるわけないと思ったんだ。

フリーランスの道へ

しみず:そういう中で、みんながそれぞれの仕事をやりはじめたんですか?

坂口:そうだね。全員がフリーランスだった。ライターだったりグラフィックデザイナーだったり大工だったり。僕は、半分フリーみたいな感じで、イベントの企画とかプロデュースをやるようになった。その前から自分でイベントを企画してたから。2003年に代官山UNITの立ち上げ準備がはじまったときに声をかけてもらって参加して、2008年までやってたかな。音楽活動やってた方が人脈も広がるから、バンド活動と両方やってた。

しみず:代官山UNIT、いいハコとして残ってますよね。

坂口:最初はお客が入らなくて大変で、店のカラーを出していくために自主イベントをいっぱいやったよ。アニソンとかビジュアル系とか入ってきてなんでもありっていうのは違うじゃない?初めて自主イベントでソールドアウトになったのが、僕がやった菊池成孔さんのイベントだったんだ。それで1周年のときに、僕がジェームズ・チャンス(アンド・ザ・コントーションズ)を呼んで3 Daysをやったんだよ。それがコントーションズの初来日だったんだよね。

坂口:次の年にESGの初来日をやって、シルバー・アップルズをやって、自分の好きなニュー・ウェイブ系の人たちを片っ端から呼んで。他にも、アフリカ・バンバータ、トニー・アレンの単独公演、エルメート・パスコアール、アート・リンゼイ。ビザを取ったり大変だったし、赤字になって怒られたこともたくさんあるんだけど(笑)。でも、他のプロデューサーと一緒にそうやってたから、UNITって面白いね、ってイメージがついてきたんだろうね。

『6 Variations』

坂口:ダブルフェイマスで最後に(メジャーから)CDを出したのが2008年なんだけど、実はそのあと、クラウド・ファウンディングでお金を集めて、1枚出したんだ。『6 variations』ていう作品で、CDブックの形で。長野の人里はなれた別荘を10日間くらい借り切って録音したんだ。ずっと放置されてたところだから、掃除からはじめて住めるようにして、泊まり込んでレコーディングして、その様子を本の形にまとめて。本の中に架空の街の絵があって、それぞれの通りに協力してくれた人たちの名前をつけたんだ。


しみず:そうなんですか!まさに先輩ですね。表紙もオレンジで、だいぶテイストも近いじゃないですか!

坂口:そうだね(笑)。リリース・パーティを東京都現代美術館のレストランでやったんだけど、オレンジをテーマ・カラーにして、衣装もぜんぶオレンジで、ドリンク・チケットもぜんぶオレンジ色で作った。

しみず:へー!

坂口:CDってフォーマットはなくなっていくと思うけど、音楽はなくならないし、録音芸術っていうものもなくならない。それで、録音物ってどういうあり方だろう、って思ったとき、やっぱりこういう方向性だと思う。

しみず:プロダクトとしての価値ですよね。

モノとしての魅力

しみず:アナログは、モノとしての魅力がありますよね。所有欲が満たされる。

坂口:僕が音楽を聴きはじめたのは、CDが出る前だった。その場で聞けないから、ジャケットのアートワークから音を想像して、買ってから走って家に帰ったもんね。それってやっぱり、プロダクトとしての楽しみなんだよね。持って帰って、中のライナーノーツとか読みながら、その世界に入っていく、みたいな。
ダウンロードは便利だしいまはそれしか聴いてないくらいだけど、いつどこで手にいれたか覚えてないんだよ。アナログは家に何千枚とあったけど、だいたい覚えてるよね。中学生のときにあの店で買ったなーあの店もうなくなっちゃたなー、とか。

しみず:ダウンロードだと、付属情報が少ないですよね。作曲者のクレジットとかないし、歌詞もないことが多いし。

坂口:極端に情報量が少ないんだよね。Apple Musicなんてストリーミングだから、ダウンロードすらしない。アナログや本だと、重みがあるし、圧倒的に情報量が多い。色や紙質とか、紙をめくる感じとかね。

しみず:オレも今回は、出来上がったものを見て、なんか感動しました。絵には関わってないんですけど、出来上がったもの見ると、うれしいよなー。

坂口:本の匂いとかね。紙の匂い。やっぱり手触りっていうのは、すごい情報量だと思うんだ。それがいっさい切り離されて音だけになると、情報量が少ないから、記憶に残らない。

しみず:視覚と触覚と嗅覚。ないのは味だけですね。

坂口:ダブルフェイマスでは、『6 variations』を出したとき、有本くるみさんにお願いして、それぞれの曲をイメージした料理をつくってもらったんだ。そのレシピも本に載せたよ。現代美術館でやったライブでは、その料理も食べれるようにした。あと、コンドルズの近藤(良平)さんに踊りをつくってもらって、みんなで踊った。


しみず:面白い!

坂口:音楽って、音だけで存在するわけじゃないから。飯も食わないで服も着ないで音楽だけ聴いてる、ってありえない。やっぱり生活の中で楽しむもんだから。そう思って、本を作ったんだよね。だから、これ(『La Palma』)は、こうあるべきだと思う!

しみず:アナログの、モノとしての魅力は落ちないですもんね。

坂口:本って大事にするじゃない?ウチにCDたくさんあるけど、ケースにしまわずに盤だけ裸で積んでおくことがある。でもアナログだと、そうはしないんだよね。レコードがそのまま積んである光景って見ないと思う。

しみず:ダウンロードになると、落としたファイルを音楽フォルダに入れずに放っておいてなくしちゃうことが、けっこうあります。『La Palma』は、さすがにリッピングしてしまっちゃうひとはいないでしょう!

匂いを嗅いでほしい

坂口:いやーこれはすごいね。よく頑張ったよ。2900円は安いでしょ。

ウチらも、『6 variations』のときに、印刷に凝ろうとするとジャケット代が大変で。だから、音源はダウンロードしてもらって、ジャケットだけを売る、なんてアイディアも考えたよ。カラのCDRに盤面だけ印刷して、自分で焼いてください、って。

しみず:それ面白いですね!

坂口:でも、もうCDプレイヤー持ってない人もいるしね。こないだ鹿児島で、カフェのスタッフに、レコードのかけ方をレクチャーしたのね。で、A面が終わってひっくり返したら、え?裏にも音が入ってるんですか?って驚かれて。

しみず:えー!?

坂口:CDだと裏面には入ってないから。

しみず:逆に、両面聞けてお得!みたいな(笑)。

坂口:レコードをかけるときって、裏返してホコリをとって、ってやるじゃない。それこそお茶を点てるみたいに、丁寧に聴くよね。音楽がフィジカルなメディアに入ってたときは、みんなモノとして大事にしてたんだよね。

しみず:iPhoneとかだと、丁寧にクリックして、ってないですよね、

坂口:ないない。「ソフト・クリック」とか、ないよね(笑)。

しみず:いま音楽が身近になって、簡単に音楽が聴けるようになったじゃないですか。でも、その音楽を裏で誰かが一所懸命つくってるんだ、っていう感じがしなくなりました。制作者のクレジットなんて見ないじゃないですか。

坂口:情報量が少ないんだよね。無味無臭だから、記憶に残らない。

しみず:レコードに両面あるって知らない人や、スマホでしか音楽を聴かない人が、『La Palma』に出会って感動してくれたらうれしいですね。

坂口:音楽を聴く「体験」として、楽しいと思うよ。ライブとは違った楽しみだから。ぜひ匂いを嗅いでほしいよね!笑

坂口修一郎

1971年鹿児島生まれ。1993年より無国籍楽団Double Famousのメンバーとして音楽活動を続ける。2010年から野外イベント”グッドネイバーズ・ジャンボリー”を主宰。2014年企画/ディレクションカンパニーBAGN Inc.(BE A GOOD NEIGHBOR)を設立し、日本各地の商業施設や自治体のイベントやフェスティバル、オープンスペースの空間プロデュースなど、ジャンルや地域を越境しながら多くの場づくりを行っている。2018年グッドネイバーズ・ジャンボリーの開催地、鹿児島県南九州市川辺の地域プロジェクトとして一般社団法人リバーバンクを設立し代表理事に就任。

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